赤外光源というと、リモコンやセンサーといった工業製品を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実際には、農業や医療といった私たちの生活に身近な分野でも、赤外光源は重要な役割を果たしています。本記事では、あまり知られていない赤外光源の意外な活用例をご紹介します。
農業分野での活用
スマート温室のCO2濃度管理
現代の温室栽培では、植物の光合成を最適化するために、CO2濃度を精密にコントロールしています。ここで活躍するのがNDIRセンサー用の赤外光源です。
仕組み
NDIRセンサーが赤外線吸収を利用してCO2濃度をリアルタイムで測定し、最適レベル(通常の大気より高い800~1,500ppm)を維持します。これにより、野菜や果物の成長速度が20~40%向上することが報告されています。
使用される光源
温室環境では24時間連続稼働が求められるため、長寿命で安定性の高い赤外光源が必要です。押野電気株式会社のNDIR方式赤外光源のような専用設計の光源が、こうした用途で採用されています。
ポイント
高級トマトやイチゴの栽培では、CO2濃度管理が味と収量を左右する重要技術となっており、赤外光源がその心臓部を支えています。
土壌成分の近赤外分析
近赤外分光法を用いて、土壌の水分含有量、有機物含量、窒素・リン・カリウムなどの栄養成分を非破壊で測定できます。
仕組み
近赤外領域(0.7~2.5μm)の光を土壌に照射し、反射・吸収スペクトルを解析することで、複数の成分を同時に測定します。従来の化学分析より迅速で、現場での即時判断が可能です。
使用される光源
レボックス株式会社のSLG-150V-NIRのような近赤外光源が、測定装置に使用されています。
ポイント
スマートフォンサイズの携帯型土壌分析計も開発されており、農家が畑で簡単に土壌診断できる時代になっています。
植物工場の環境制御
完全人工光型の植物工場では、密閉空間内の環境を精密に制御する必要があります。
仕組み
CO2濃度、湿度、温度を複数のセンサーで常時監視し、最適な成長環境を維持します。NDIRセンサーがCO2濃度管理の中核を担っています。
使用される光源
岩崎電気株式会社などの産業用光源が、長期安定稼働を支えています。
ポイント
レタスやハーブ類の栽培では、CO2濃度を通常の3~4倍に高めることで、成長速度を大幅に向上させています。
医療分野での活用
呼気ガス分析による診断
患者の呼気に含まれるガス成分を分析することで、様々な病気の診断や治療効果の判定が可能です。
主な測定対象ガス
- CO2: 代謝状態、肺機能の評価
- 一酸化窒素(NO): 喘息などの気道炎症の指標
- アセトン: 糖尿病のケトン体生成の指標
- アンモニア: 肝機能障害の指標
- 揮発性有機化合物(VOC): 肺がんなどの早期診断
使用される光源
医療グレードの高精度NDIRセンサーには、押野電気株式会社のNDIR方式赤外光源のような高信頼性の光源が採用されています。
ポイント
呼気を吹き込むだけで、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染診断ができる検査(尿素呼気試験)も、赤外線を用いたCO2測定技術が基盤となっています。
非侵襲血糖値測定の研究
現在、研究段階にある技術として、皮膚を通して血糖値を測定する非侵襲的方法が注目されています。
仕組み
近赤外分光法を用いて、皮膚組織中のグルコース濃度を測定します。指先に光を照射し、透過・反射光のスペクトル変化から血糖値を推定します。
研究状況
壺坂電機株式会社などの精密光源が、研究用測定装置に使用されています。
ポイント
実用化されれば、糖尿病患者が痛みなく日常的に血糖値を測定できるようになります。スマートウォッチ型のデバイスも開発中です。
共通する技術的要求
農業・医療分野の赤外光源に共通して求められる特性があります。
長期信頼性
どちらの分野も、24時間365日の連続稼働や、長期間のメンテナンスフリー運用が求められます。光源の寿命と安定性が極めて重要です。
高精度測定
農作物の品質や患者の生命に関わるため、測定精度への要求が厳しく、光源の安定性が測定精度に直結します。
安全性
特に医療分野では、患者に接触または近接して使用するため、電気的安全性、熱的安全性、生体適合性が求められます。
小型化・省電力化
ポータブル機器や携帯型測定器のニーズが高まっており、MEMS型光源や高効率LEDへの需要が増加しています。
今後の展望
農業分野
| 精密農業の進展 | 植物工場の高度化 | 食品品質管理 |
| ドローンや自動走行トラクターに搭載された赤外線センサーによる、圃場全体の生育状態リアルタイム監視 | AI制御による環境最適化で、更なる生産性向上 | 流通・小売段階での品質保証への応用拡大 |
医療分野
| 在宅医療の充実 | 早期診断の実現 | ウェアラブルデバイス |
| 小型・低コストのセンサーにより、自宅での健康モニタリングが日常化 | 呼気分析によるがんなどの早期発見技術の実用化 | スマートウォッチなどでの連続的な健康監視 |
どちらの分野でも、赤外光源の更なる小型化、省電力化、高性能化が技術革新の鍵となっています。
まとめ
赤外光源は、私たちが想像する以上に、農業と医療という身近な分野で重要な役割を果たしています。
私たちが毎日食べる野菜や果物、そして医療機関で受ける治療の背後には、高度な赤外線技術が存在しているのです。
