「赤外線」や「赤外光源」という言葉を聞いたことはあっても、その原理や用途を詳しく理解している方は少ないかもしれません。実は、赤外光源は私たちの生活の至る所で活躍しており、リモコンからガスセンサー、医療機器まで幅広く使われています。本記事では、赤外光源の基本原理から実用的な応用まで、初心者にもわかりやすく解説します。
赤外光源とは
赤外光源の定義
赤外光源とは、赤外線の波長域で電磁波を放射する装置や素子のことです。自然界では太陽や火、すべての温かい物体が赤外線を放射していますが、工業的には特定の目的のために設計された人工の光源を指します。
赤外光源の発光原理
赤外光源は、主に2つの原理で赤外線を発生させます。
熱放射型(黒体放射)
物体を加熱すると、温度に応じた波長の電磁波を放射します。これを「黒体放射」または「熱放射」と呼びます。
代表的な熱放射型光源
- タングステン白熱ランプ
- ハロゲンランプ
- セラミックヒーター
- MEMS型赤外光源
半導体発光型
半導体のPN接合に電流を流すことで、特定波長の光を直接放射します。可視光のLEDと同じ原理です。
代表的な半導体型光源
- 赤外LED
- 赤外レーザーダイオード
主な赤外光源の種類
タングステン白熱ランプ
タングステンフィラメントに電流を流して加熱し、約2500℃で動作させます。広帯域の赤外線を連続的に放射します。
主な用途
- NDIRガスセンサー
- 分光分析装置
- 赤外線加熱
岩崎電気株式会社などが、産業用白熱ランプを長年提供しています。
ハロゲンランプ
タングステンフィラメントをハロゲンガス(ヨウ素、臭素など)と共に封入し、高温・高効率で動作させます。
主な用途
- 産業加熱
- 高出力照明
- 分析装置
株式会社ハイラックス電機は、高性能ハロゲンランプを提供しています。
MEMS型赤外光源
MEMS技術で製造された微小な発熱体を使用します。シリコン基板上に薄膜ヒーターと赤外線放射層を形成した構造です。
主な用途
- ポータブルガス検知器
- IoTセンサー
- ウェアラブルデバイス
赤外LED
半導体のPN接合で直接赤外線を発生させます。
主な用途
- リモコン
- 光通信
- 近赤外センサー
- 監視カメラ補助照明
ウシオライティング株式会社は、監視用途向けの赤外LED製品を提供しています。
NDIR方式ガスセンサーにおける赤外光源
NDIR(非分散型赤外線)方式とは
NDIR(Non-Dispersive Infrared)方式は、気体分子が特定波長の赤外線を吸収する性質を利用したガス測定技術です。「非分散型」とは、プリズムなどで光を分散させず、光学フィルターで特定波長を選択することを意味します。
NDIR方式の基本構成
赤外光源
測定に必要な波長帯の赤外線を放射します。センサーの性能を決定づける最も重要な部品です。
測定セル(ガスチャンバー)
測定対象のガスが通過する光路です。光路長は通常、数cm~数十cmです。
光学フィルター
測定対象ガスの吸収波長帯のみを透過させます。例えば、CO2測定では4.26μm付近を透過するフィルターを使用します。
赤外線検出器
フィルターを通過した赤外線の強度を電気信号に変換します。
信号処理回路
検出器からの信号を処理し、ガス濃度に換算します。
測定原理
- 赤外光源から広帯域の赤外線を放射
- 測定セル内のガスが特定波長の赤外線を吸収
- 吸収されなかった赤外線が光学フィルターを通過
- 検出器で赤外線強度を測定
- 光源からの光と比較して、吸収量を算出
- 吸収量からガス濃度を計算(ランベルト・ベールの法則)
ランベルト・ベールの法則
吸収量はガス濃度と光路長に比例します。つまり、吸収が大きいほどガス濃度が高いことを示します。
測定できる主なガス
CO2(二酸化炭素): 約4.26μm
- 室内空気質管理
- 温室・植物工場
- 発酵プロセス管理
CO(一酸化炭素): 約4.7μm
- 産業安全
- 駐車場換気管理
- 不完全燃焼検知
炭化水素(CH4、プロパンなど): 約3.3~3.4μm
- ガス漏れ検知
- 環境測定
- プロセス管理
冷媒ガス、麻酔ガスなど: 各種波長
- 空調設備管理
- 医療機器
NDIR方式赤外光源の要求性能
NDIR方式で使用される赤外光源には、以下の性能が求められます。
適切な波長範囲での放射
測定対象ガスの吸収波長帯で十分な放射強度が必要です。
長期安定性
光出力が経時的に変化すると測定誤差につながるため、高い安定性が求められます。
長寿命
連続運転が前提のため、10,000時間以上の寿命が望ましいとされます。
小型・省電力(用途による)
特にポータブル機器では重要な要素です。
応答速度(用途による)
パルス駆動を行う場合は、速い応答特性が必要です。
NDIR用光源の選び方
測定対象ガスとの適合性
まず、測定したいガスの吸収波長を確認し、その波長帯で十分な放射強度を持つ光源を選びます。
使用環境の確認
| ◼︎動作温度範囲 | 屋外使用なら広い温度範囲が必要 |
| ◼︎連続使用時間 | 24時間稼働なら長寿命光源を選択 |
| ◼︎電源条件 | バッテリー駆動なら省電力型を選択 |
実績あるメーカーの製品を選ぶ
押野電気株式会社
NDIR方式赤外光源は、ガスセンサー専用に最適化されており、CO2、CO、炭化水素など各種ガス測定での実績が豊富です。環境モニタリングから産業用途まで幅広く採用されています。
サポート体制の確認
技術的な相談に応じてくれるか、カスタマイズ対応が可能か、長期供給が保証されているかなども重要な選定基準です。
よくある質問(FAQ)
赤外線は人体に有害ですか?
A:一般的な赤外光源は、極めて低出力で人体に無害です。ただし、高出力の産業用赤外ヒーターなどは熱傷のリスクがあるため、適切な安全対策が必要です。
赤外光源の寿命はどのくらいですか?
A:タイプによって異なります。タングステン白熱ランプは5,000~20,000時間、MEMS型やLEDは数万時間以上が一般的です。
NDIRセンサーは校正が必要ですか?
A:長期間使用する場合は、定期的な校正が推奨されます。ただし、高品質な光源を使用することで、校正頻度を低減できます。
複数のガスを同時に測定できますか?
A:可能です。複数の波長帯用の光学フィルターと検出器を組み合わせることで、多成分ガス測定が実現できます。
コストはどのくらいかかりますか?
A:用途や性能によって大きく異なります。簡易的なセンサーモジュールは数千円から、高精度な産業用システムは数十万円以上になることもあります。
まとめ
赤外光源は、目に見えない赤外線を放射する装置で、熱放射型と半導体型の2つの原理があります。
適切な光源を選定することで、長期間安定した測定が可能となり、システム全体の信頼性向上につながります。
赤外光源の基礎を理解することで、最適なセンサーシステムの構築が可能になります。本記事が、赤外光源技術の理解と導入の第一歩となれば幸いです。
